学びのヒント by SLA

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2019/09/13 学習ポイント

基底って何?

数学の講義が抽象的過ぎて何もわからなくなった経験はありませんか?例えば線形代数では「一次独立」とか「生成」とか「基底」などの難しそうな言葉が大量に出てくると思います. 全てを投げ出す前に, これらの概念を一緒に学んでいきましょう.

ここでは基底についての感覚的なイメージを掴んでもらうことを目標とします.扱う線形空間(ベクトル空間)はすべてユークリッド空間 \mathbb{R}^n としましょう.(一般の線形空間の基底に対しても同様のイメージが当てはまります. )

 

(1)一次独立(線形独立)って何?

まず一次独立の定義を思い出そう.

定義(一次独立)

\mathbb{R}^nr 個のベクトル \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r} が,
c_{1}\boldsymbol{a_{1}} + c_{2}\boldsymbol{a_{2}} + \dots + c_{r}\boldsymbol{a_{r}} = 0 (c_{1},c_{2}, \dots ,c_{r} \in \mathbb{R}) \Longrightarrow c_{1}=c_{2}=\dots=c_{r}=0
を満たすとき \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r} は一次独立であるという.

今からは特に \mathbb{R}^3 の場合を考えよう.\boldsymbol{e_1} =(1,0,0),\boldsymbol{e_2} =(0,1,0), \boldsymbol{e_3} =(0,0,1) とするとき,次のことが成立します.

1. \boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2} は一次独立

2. \boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3} は一次独立

3. \boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3},(1,2,0) は一次独立でない

この3番を使って一次独立の意味を考えてみよう.
\boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3},(1,2,0)定数倍と和(一次結合)で表されるすべてのベクトルたちを考えたとき,(1,2,0)=\boldsymbol{e_1}+2 \boldsymbol{e_2} と書けるので,\boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3} の一次結合のベクトルたちと \boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3},(1,2,0) の一次結合のベクトルたちは同じものになることがわかります.線形代数に慣れている人に対しては張る部分空間が同じといった方が簡潔で伝わりやすいかもしれません.

つまり,3番は2番に比べて多くのベクトルをもっているのに一次結合で表されるベクトルはすべて同じものなのです.この意味で3番は2番に比べて無駄があるというイメージが持てるでしょう.一次独立はこの意味での無駄をなくしたベクトルたちのことをいうので,ベクトルの個数が少ないほど一次独立になりやすく,多いほどなりにくいことがわかると思います.

 

(2)生成するって何?

先ほどと同じく,まずは定義の確認からしよう.

定義(生成)

\mathbb{R}^nr 個のベクトル \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r} が,\mathbb{R}^n を生成するとは,\mathbb{R}^n の任意のベクトル \boldsymbol{x} に対してある c_1,c_2, \dots ,c_r \in \mathbb{R} が存在し,\boldsymbol{x}= c_1\boldsymbol{a_1}+ c_2\boldsymbol{a_2} + \dots + c_r\boldsymbol{a_r} が成り立つことをいう.

(1)と同様に \mathbb{R}^3 の場合を考えよう.\boldsymbol{e_1}=(1,0,0),\boldsymbol{e_2}=(0,1,0), \boldsymbol{e_3}=(0,0,1) とするとき,次のことが成立します.

1. \boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2}\mathbb{R}^3 を生成しない

2. \boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3}\mathbb{R}^3 を生成する

3. \boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3},(1,2,0)\mathbb{R}^3 を生成する

この1番を見ると,\boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2} の定数倍と和だけでは \boldsymbol{e_3} を作れないことがわかるので,\mathbb{R}^3 を生成しません.一方,2番目は明らかに \mathbb{R}^3 を生成しているので,それに余分なベクトルを加えて3番のようにしても \mathbb{R}^3 を生成します.

これから,ベクトルの数が多いほど生成しやすく,少ないほど生成しにくいことがわかると思います.

 

(3)基底って何?

今まで通り,まずは定義の確認をしよう.

定義(基底)

\mathbb{R}^nr 個のベクトル \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r} が次の両方を満たすときこれらは \mathbb{R}^n の基底であるという.

1) \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r} は一次独立

2) \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r}\mathbb{R}^n を生成する

この定義と(1),(2)で見たことより \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r}\mathbb{R}^n の基底であることは感覚的に次のように書き換えることができます.

1) \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r} は(1)の意味での無駄がないように十分少ない

2) \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r}\mathbb{R}^n を生成できるように十分多い

つまり,線形空間の基底とはこの2つを満たすような適切な個数のベクトルたちであり,「 \mathbb{R}^n を生成し,かつ無駄がないベクトルたち」というイメージです.(1)と(2)を見れば,\boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3}\mathbb{R}^3 の基底であることが確認できますが,これとは異なるベクトルたち (1,2,0),\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3}\mathbb{R}^3 の基底であることがわかります.したがって,線形空間の基底の作り方はただ一つではありません.

ここでは証明を与えませんが,線形空間の基底について次のような事実が成立することが知られています.

a) \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r}\mathbb{R}^nの基底であるならば,\mathbb{R}^n の任意のベクトルは \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r} の一次結合で一意的に表せる.

b) 線形空間には必ず基底が存在する.

c) 線形空間の基底の作り方は様々であるが,その個数は一定.

d) \mathbb{R}^n の一次独立なベクトルたちに対して,適切なベクトルを付け加えて \mathbb{R}^n の基底にできる.

e) \mathbb{R}^n を生成するベクトルたちに対して,適切なベクトルを除いて \mathbb{R}^n の基底にできる.

c) で述べた事実から線形空間に対して,その基底の個数をもって「次元」という概念を導入できます.\mathbb{R}^n の次元は n なので「 \boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2}, \dots ,\boldsymbol{a_r}\mathbb{R}^n の基底である 」と言ったら r=n が従います.

d) の事実は,与えられたベクトルたちには無駄がないので,無駄を起こさないようにうまくベクトルを付け加えれば基底にできるということです.

同様にe) の事実は,与えられたベクトルたちは \mathbb{R}^n を生成するので,生成するという性質を失わないよう気をつけながら,無駄なベクトルを除いていけば基底を作れるということです.

作成者:SLA