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完全反対称テンソル
前置き
完全反対称テンソルとは、
(1)
で定義されるものです。添え字 はそれぞれ独立に
のどれかの値を取ることができ、その値によって
の値が(1)のように決定されます。
の値が重複(例えば
)している場合、
となります。
最初はとっつきにくいかもしれませんが、この記号に慣れると、ベクトル解析(特にベクトル同士の外積計算が出てくるもの)などの複雑な計算を比較的簡単にすることができるようになります。
色々な場合に適用できるので、ぜひマスターしてみてください。
この記事では、具体的にこの記号がどのように使用されるかを紹介し、いくつかの公式を紹介した後で、それらを用いてベクトル解析の公式を証明してみましょう。
準備
まず、3つの3次元ベクトル とだと考えてもらっても差し支えありません。次に、各軸の単位ベクトル
(2)
を定義しておきます。1,2,3はそれぞれ軸の名前で、 のことだと考えてもらって差し支えありません。次に、各軸の単位ベクトル
(3)
も定義しておきます。
また、後で使うことになるので、ディラックのデルタ
(4)
というものを定義しておきます。
これは、添え字 はそれぞれ独立に
のどれかの値を取ることができ、その値によって
の値が(4)のように決定される、というものです(例えば
なら
、
なら
など)。
最後に、アインシュタインのダミーインデックスという約束事を決めておきます。
これは、名前だけ聞くと大層なものですが、式の中で出てくる和の記号 を書くのが面倒なので、それを省略しようという約束事にすぎません。
具体的には、1つの項の中で2回出てくる添え字は自動的に和を取る、というものです。
これだけだと分かりにくいので、先ほど(2)式で定義した、と
の内積を使って説明します。
両者の内積は、
と書かれます。
右辺に が2つ表れているので、これにアインシュタインのダミーインデックスを適用すると、
となります(最右辺がダミーインデックスを用いた形)。
ベクトル解析などの複雑な計算では、式を書く量が多いので、このような約束事を決めておくと楽になります。
この記事でも計算において、ダミーインデックスを用いることがあります。
完全反対称テンソルの使用方法といくつかの公式
以下、断りのない限り、 はそれぞれ独立に
のどれかの値を取るものとします。
さて、完全反対称テンソルを使ってベクトルの外積を表してみましょう。
(2)式で定義した と
の外積は、
(5)
と書くことができます。
右辺は複雑に思えるかもしれませんが、実際に、 に
の数字を代入していくと、理解しやすいです。
例えば を
に固定してみましょう。
すると、 は
か
の値を別々に取ることしかできません(
があるので、
か
が
になると、その項はゼロになります。また、
でもその項はゼロになります)。
のときだけ上式を計算してみると、
となり、 のときも同様に計算し、足し合わせると
となって、外積の定義通りになっていることが分かります。同様にして、(3)で定義した単位ベクトル同士の外積は
(6)
と書けます(実際に に値を代入して確かめてみてください)。
次に、よく使われる公式を3つ紹介します。
証明は各自でやってみてください((9)は少し難しいです)。
どれも、具体的に に
から
の値を代入するか、文字を固定して計算することで意味をつかむことができます。
(7)
(8)
(9)
この中で特に(9)式はよく用いられ、これから行う公式の証明でも使います。
完全反対称テンソルを用いた公式の証明の例
これまでに紹介したものを利用して、ベクトル解析の公式
(10)
を証明してみましょう。左辺を変形していきます。まず、外積を完全反対称テンソルで表します。
これからはダミーインデックスを用いてを省略します。上式の外積をさらに完全反対称テンソルで表します。
の部分の添え字は、前の
とは独立でなければいけないので、新たな添え字
を導入しました。(6)式を用いると、
となります。ここで、前に紹介した公式(9)を用いると、
となって、(4)の の定義から、
の項は消えるので、
と(10)を示すことができました。
このように、完全反対称テンソルを使うと、ベクトルの成分を一括して計算できるので、成分の多い計算を比較的簡単に扱うことができるようになります。
ベクトル計算などが複雑になっていくと、どうしても、完全反対称テンソルに頼らなければならない場面が出てきます。
ぜひ、証明などを通して完全反対称テンソルの扱いに慣れてみてください。