学びのヒント by SLA

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2019/09/02 学習ポイント

rank(階数)のお話 Part 1

行列の階数は色々な仕方で定義されます. 友達と相談すると違った教わり方をしていて混乱することもあるでしょう. ここでは講義で教わるであろう階数の定義をいくつか紹介します. 見た目は違って見えますが実はどれも同じ結果を与えてくれます.

 

記号

n 次元ベクトル全体の集合を n 次元(数)ベクトル空間と呼んで V^n と書こう. 例えば V^n\mathbb{R}^n, \mathbb{C}^n と思ってもよい. V^n の元(ベクトル)は \boldsymbol{x},\boldsymbol{y},\boldsymbol{a},\boldsymbol{b} のように太く書くことにする.  Amn 列の行列とする. 行列 A が与えられると V^n から V^m の線形写像

    \[ f_A : V^n \longrightarrow V^m\ ;\ \boldsymbol{x}\longmapsto A\boldsymbol{x} \]

が定まる. これを行列 A付随する線形写像という. f_A(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x} と書けるからしばしば f_AA を同一視することにする. V^n のある元 x を使って y=f_A(x) と書けるような V^m の元全体の集合を

    \[ \mathrm{Im}f_A \]

と書いて f_Aという. f_A(V^n) または AV^n と書いたりする.

    \[ \mathrm{Ker}f_A=\{\, \boldsymbol{x}\in V^n \, ;\, f_A(\boldsymbol{x})=0 \,\} \]

f_Aという. 記号で f_A^{-1}(0) と書くこともある. f_A の像は V^m の, \mathrm{Ker}f_AV^n の部分空間になる.

 

階数の定義その一

定義(線形写像(または行列)の階数). 行列 A に付随する線形写像の像の次元 \mathrm{dim}f_A を 線形写像 f_A階数 (行列 A の階数)とよぶ. 記号で \mathrm{rank}A と書く.

 

階数の定義その二

Amn 列の行列とする. \mathrm{rank} AA=(\boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_n) と列ベクトル表記したとき \boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_n のうち一次独立な組の最大の個数を行列A階数とよぶ.

 

階数の定義その三

mn 列の行列から r 個の行 i_{1},\dots, i_{r}r 個の列 j_{1},\dots, j_{r} (j_1<\cdots < j_{r}) を抜き出して作った行列

    \[ \begin{pmatrix} a_{i_{1}j_{1}}&\cdots&a_{i_{1}j_{r}} \\ \vdots &\ddots &\vdots \\ a_{i_{r}j_{1}}&\cdots&a_{i_{r}j_{r}} \end{pmatrix} \]

r 次 の小行列, その行列式を r 次の小行列式という. その個数は {}_mC_r{}\times _nC_r 個ある. 行列 Ar 次小行列式の中に 0 でないものが存在して, (r+1) 次以上の小行列式は全て 0 となるとき, A階数r で定める. すなわち, \mathrm{rank} AA に含まれる 0 でない小行列式の最大のサイズとして定義する.

 

階数の定義その四

    \[ \begin{pmatrix} \bold{1} & 2& 3 \\ 0 & \bold{4} & 5 \\ 0 & 0& \bold{6} \end{pmatrix}, \begin{pmatrix} \bold{1} & 2 & 0 & 3 \\ 0 & 0& \bold{5} & 6 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}, \begin{pmatrix} 0 & \bold{1} & 2 & 3 & 4 \\ 0 & 0 & 0 & \bold{5} & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \]

のように各行において 0 でない成分で列の番号が最小のものを太字で書いたとき, 太字で書かれた成分が右下がりで, さらに同じ列に太字で書かれている成分がない行列を階段行列と呼びたい. また, 太字で書かれた成分が出てくる数をその行列の階数と定めよう. 上の例ではそれぞれの行列の階数は 3,2,2 である.

定義. 次の形をしている行列 B階段行列という.

    \[ \begin{pmatrix} 0 & \cdots & 0 \ \boldsymbol{b}_{1j_1}\ b_{1,j_{1}+1} & \cdots \\ 0 & \cdots & \cdots & 0\ \boldsymbol{b}_{2j_2}\ b_{2,j_{2}+1} \cdots \\ 0 & \cdots & \cdots & \cdots & 0\ \boldsymbol{b}_{3j_3}\ b_{3,j_{3}+1}\cdots \\ \vdots & & & & \cdots \\ 0 & \cdots & & & & \cdots 0\ \boldsymbol{b}_{rj_r}\ b_{r,j_r+1} \\ 0 & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & & 0 \\ \vdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & & \vdots \\ 0 & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & & 0 \end{pmatrix} \]

ただし, j_1<j_2<\cdots <j_r, b_{1j_1},b_{2j_2},\cdots ,b_{rj_r}\neq 0. また各行において, 0 でない成分で列の番号が最小のものを太字で書いている(ベクトルでなく強調して太くした). このときの r を階段行列 B階数として定める.

行基本変形. 行列の行に関する基本変形とは, 行列の行を変形して新しい行列を作り出すための手続きである. 正確に言うと以下に述べる三種類の手続きのことを指す.

  • Type 1: 2つの行を入れ換える.
  • Type 2: ある行を \alpha \neq 0 倍する.
  • Type 3: 行列のある行を \alpha 倍して別の行に加える.

行基本変形は連立方程式を解く操作と対応している. そう思うとなんとなく次の命題が成り立つと予想できそうだ(実際に予想は正しい).

命題. 行基本変形によって行列 A は階段行列に変形できる.

定義. 行列 A を行基本変形によって得た階段行列の階数を A階数という. 行基本変形の仕方、および行基本変形によって得られる階段行列の得られ方は一通りに決まるわけではないが, 次のことが成り立つ.

命題. 行列 A に二通りの行基本変形を施して得られた行列を B, B' としよう. \mathrm{rank} は行基本変形の操作で不変である. つまり \mathrm{rank} B=\mathrm{rank} B' がなりたつ.

これは行列 A に行基本変形を施した際ある人が階数 r の階段行列に変形できたのに, 別の人がすると r とは異なる s を階数にする階段行列になってしまったということが起きないことを意味している.

 

階数の定義その五

定義(列基本変形). 行列の列に関する基本変形とは, 上の三種類の操作において下線を引いた行の部分を列に書きなおした操作のことである. 正確に言うと以下に述べる三種類の手続きのことを指す.

  • Type 1: 2つの列を入れ換える.
  • Type 2: ある列を \alpha \neq 0 倍する.
  • Type 3: 行列のある列を \alpha 倍して別の列に加える.

定義. 行および列基本変形 (まとめて基本変形と呼ぼう) を実行していくと次のような階段行列に変形することができる:

    \[ \left( \begin{array}{@{\,}c|c@{\,}} \HUGE{E_{r}} &\HUGE{O} \\ \hline \HUGE O & \HUGE{O} \end{array} \right) =(\boldsymbol{e}_1,\cdots,\boldsymbol{e}_{r},0,\cdots,0). \]

ただし, E_{r}r 次単位行列で \boldsymbol{e}_{k}=^\mathrm{t}(0,\cdots,0, 1, 0, \cdots, 0) である. このときの r を行列 A階数という. この定義が意味を持つためには次を示せばよい.

命題. 行列 A を基本変形して得られた行列を B としよう. \mathrm{rank} は行基本変形の操作で不変である. つまり \mathrm{rank} A=\mathrm{rank} B がなりたつ.

 

証明などについて

以上で5通りの階数の定義を与えてきました. これらの定義は一見違ってみえますが, どの定義から計算しても得られる階数の値は同じになります. この事実の証明はPart2,3で与え, 具体的な例をPart4で与えたいと思います.

 

階数の性質,次元定理とその系

命題.

    \[ \mathrm{rank}(A)=\mathrm{rank}(^tA). \]

階数の定義その三の視点からみるとあたりまえの式になってしまいますが, これは階数の定義その二とその四が強く結びついているということを主張しています. すなわち, 列基本変形と行基本変形の結び付き主張しています.

命題(次元定理). fV^n から V^m への線形写像とする. このとき次が成り立つ:

    \[ \mathrm{dim} f(V^m)=n-\mathrm{dim} \mathrm{Ker} f. \]

直感的にいえば像の次元は定義域側の次元を超えない. 基底をなすベクトルで零に行くものの個数ぶんだけ減って(退化)しまうということである. このことから \dim \mathrm{Ker} f の値を退化次数ということもあるようだ. 次元定理によって行列 A の階数, 退化次数を計算するときはどちらかの次元を計算すれば十分ということになる.

. fV^n から V^n への線形写像とする. このとき f が単射になることと f が全射になることは同値.

命題. (m,n) 行列 A=(\boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_n) について次が成立する.

    \[ 0\leq \mathrm{rank} A \leq m,n. \]

命題. 次の条件は同値:

  • \mathrm{rank}A=n.
  • \boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_n が一次独立.
  • f_A :V^n\ni \boldsymbol{x}\longmapsto A\boldsymbol{x} \in V^m が単射.

このとき\mathrm{Im} f_{A} \subset V^{m}なのでn \leq m.

命題. 次の条件は同値:

  • \mathrm{rank}A=m.
  • \boldsymbol{a}_1,\dots,\boldsymbol{a}_nV^m を生成する.
  • f_A :V^n\ni \boldsymbol{x}\longmapsto A\boldsymbol{x} \in V^m が全射.

このとき 次元定理から m\leq n.

. 特に m=n の場合 \mathrm{rank} A=n \Leftrightarrow f_{A} は単射 \Leftrightarrow f_{A} は全射 \Leftrightarrow f_{A} は全単射 \Leftrightarrow \det A\neq 0 となる.

 

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作成者:SLA