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2019/10/24 学習ポイント

Cauchy-Riemann方程式

はじめに

実関数の微分と複素関数の微分の違い、わかっていますか?定義の見た目は同じですが変数が実数から複素数に変わったことで滑らかな実関数と正則関数の間には大きな変化が生じます。

この記事では正則関数の定義から始め、Cauchy-Riemann方程式の導出、最終的には実2次元の解析学とのちがいを考えようと思います。

 

複素微分

定義(複素微分). 複素関数 f(z) が点 z_{0}複素微分可能(単に微分可能)とは \displaystyle \lim_{z \to z_{0}} \frac{f(z)-f(z_{0})}{z-z_{0}} が存在することとする。また、この極限値を f'(z_{0}) と書く。 f(z) が領域 D正則であるとは、D の各点で微分可能であることとする。(領域とは連結な開集合です。要するに縁のない円盤のことです。)

注意. z \to z_{0} と、サラッと書いてありますが、これは zz_{0} への全ての近づき方で一定の極限値を持たなければならないということです。

 

Cauchy-Riemann方程式

z=x+iy として f(z)=u(x,y)+iv(x,y) と書くことにします。すなわち u,v はそれぞれ実部と虚部の関数です。

よくある間違い. 「f(z)=u(x,y)+iv(x,y) が z_0=x_0+iy_0 で微分可能であるための必要十分条件は、u(x,y) ,v(x,y) がともに (x,y)=(x_0,y_0) で偏微分可能な事である。」 ←これは間違いです!
f(z) の連続性は実部と虚部の連続性と同値ですが、微分可能性はそうはいかないのです。ここでいよいよCauchy-Riemann方程式が登場します。

定理. f(z)=u(x,y)+iv(x,y) が領域 D で正則であることの必要十分条件は D において u_x ,u_y ,v_x ,v_y が存在し連続であり、かつ D でCauchy-Riemann方程式 u_x=v_y ,u_y=-v_x をみたすことである。また、この時 f' (z)=u_x+iv_x が成り立つ。

ここでどうしてCauchy-Riemann 方程式が現れたのか、すなわち必要性の証明はというと、上の注意でも述べたように微分係数の x \to x_0 ,iy \to iy_0 での極限値が等しいので \displaystyle \lim_{x \to x_0 } \frac{f(x)-f(x_0)}{x-x_0} = \lim_{iy \to iy_0} \frac{f(iy)-f(iy_0)}{iy-iy_0} と書け、これをそれぞれの実部と虚部で比較することより従います。

 

実関数との違い

定理. 領域 D で、導関数が常に 0 ならば正則関数は定数関数である。また、正則関数の実部、虚部、絶対値、偏角のどれかが D で一定ならば、その正則関数は定数関数である。

一部分だけ定数関数であるような正則関数は存在しないということですね。実解析では局所的に定数関数でも大域的には定数関数でない滑らか関数が存在していました。(隆起関数で調べてみてください。)複素関数の微分は実関数の微分よりも相当強いということですね。

 

まとめ

複素関数の微分を、実関数の微分と同じ見た目で定義しました。同じ格好で定義したのに、実関数の場合と違ってCauchy-Riemannの方程式なるものが出てきました。これは \mathbb{C} = \mathbb{R}^2 であることに由来しています。複素微分は実関数の微分よりも遙かに強いので、滑らかな実関数と正則関数の間に大きな違いがでます。(局所的に定数関数ならば大域的に定数関数となってしまいます。)

 

参考文献

  • L.V.アールフォルス著 笠原乾吉 訳 「複素解析」 現代数学社
  • 原 惟行、松永 秀章 著 「複素解析入門」 共立出版

作成者:SLA