学びのヒント by SLA

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2019/12/20 学習ポイント

よく分かる矢印 [有機化学]

I「みなさんこんばんは。今日は電子の動きを表す曲がった矢印の勉強をしていきましょう。」

 

矢印って?

I「始めにこの“矢印”の自己紹介から始めましょうか。」

I「左側の矢印が“両矢印”電子対の動きを表します。右側が“片矢印”といって対ではない電子…つまりラジカルの動きを表します。この矢印は反応機構というものを考えるときになくてはならないものなので、しっかり覚えましょう。」

K「せんせー!ハンノーキコーってなんですか?」

I「そうですね,反応機構というのは“どのように分子や電子が動いて目的物になるか”ということを表したものです。ひとつ例を出しましょう。」

I「これは高校でも習ったと思いますが,エステルの加水分解反応です。この反応は,実際にはこの矢印ように電子が動いて進むことが分かっています。」

H「へー,よくわからないけどエステルの加水分解ってこういうふうにして反応してたんだー?ただOHと右側の部分が入れ替わるだけだと思ってましたよ」

I「高校までは反応物と生成物を覚えるだけでしたのでそれも仕方ないかと思います。ですがこれからはしっかりと反応の中身にも意識を向けていきましょう。」

 

矢印の使い方

I「では、本題の矢印の使い方に入りましょう。両矢印と片矢印はどちらもとても大事なのですが、実は反応機構を書く上で両矢印の方が圧倒的に多く出ます。ですので、まずはこちらの両矢印の説明をしましょう。」

I「先ほど確認したように、これは電子対の動きを表します。ということは矢印の根元…つまりAには電子対が入りますね?では具体的にAとBには何が入るでしょうか?」

K「やっぱり非共有電子対を持つOとかNとかマイナスのイオンがAで、Bには逆にBみたいに空軌道を持つものとかプラスのイオンですか?」

I「Kさん鋭いですね。そうです!ですがそれでは結合どちらに入るんでしょう?」

T「さっきのフリップでC=Oの二重結合から矢印が出てたから…A?…でもこれって真ん中の図だと矢印の先にも結合がありますよね?ということは結合はBにもなるってことなんですか?」

I「いいところに気付きましたね、Tさん!じつは結合はAにもBにもなり得るんです!でもこれはその物質の安定性や試薬の性質など、様々な要因に左右されてしまうので、一概にこの結合がAだ!もしくはBだ!とは言えないんですね。」

T「えー、じゃあどうしたらいいか分からないじゃないですか!」

I「そうですね、そこが難しいところでもあるんですが、化合物の安定性や試薬の性質などの知識が増えていくにつれて書けるようになってくると思います。また、『この反応機構はあり得ない』ということさえわかればそれだけで十分書けるようになるかと思います。」

A「あり得ない機構って例えばどんなのなんですか~?」

I「そうですね、ではまず次のフリップを見てください。」

I「ここにあるNuとBはそれぞれ求核剤(炭素を攻撃)と塩基(水素を攻撃)を意味するのですが、ここではただのアニオン…つまりマイナスイオンとして捉えてください。これら試薬は矢印の付け根(A)に相当します。ではTさん、どの色の矢印が『あり得ない反応機構』でしょうか?」

T「えーっと、Oって電気陰性度が大きくて少しマイナスになってるって聞いたことあるから、赤は厳しいんじゃないかなぁ?あとはどれも大丈夫な気がします。」

I「んーおしい、実は紫も無理なんですね。では1つずつ解説していきましょう!」

 

I「まず赤矢印の場合、もし仮に無理やりNuとOがくっついたとします。するとOは電子過剰になってオクテッド則に反してしまうので、どこかの電子を離さなければいけませんね。そう考えるとC=O π結合をCに渡すしか逃げ道がないのですが、電気陰性度の大きいOからCに電子がすんなり移動するでしょうか?さらにCに電子が移動したとしてそのあとは?」

I「新しいC=Cπ結合を形成するようにしか電子の逃げ道がありませんが、その先にはHしかありません。Hはプロトン(H+)にはなりやすくヒドリド(H-)にはなりにくいのにそうなるしかなくなってしまいます。したがってこの赤矢印では反応機構全体を通して無理があると言えますね。」

 

I「次に紫の反応について考えてみましょう。攻撃を受ける炭素(カルボニル基の隣の炭素をα位の炭素と言います)は4本の共有結合をもっています。しかもCl-のように脱離能の高い脱離基でもない。カルボニル基のOがある程度電子を吸引していますが、bパターンのようにC-Cσ結合を切断するほどの影響力を持っているわけでもありません。つまりこのα位のCは電子の流出ができず、求核剤(Nu-)によって新たにできる5本目の結合を消化できないのでこれも不可能な反応と言えますね。」

 

I「ではここからは可能な例を見ていきましょう。まずは青矢印から見ていこうと思います。これは先ほどでたエステルの加水分解反応と同じですのでこの反応の後どうなるかは後で見返してみてください。この反応機構では求核剤がカルボニル炭素を攻撃したあと、比較的弱い結合であるC=Oπ結合が切れて電子がOに移動しますがこれは電気陰性度の観点から考えても無理ではないですね。」

I「今回はアセトンを使っているのでメチル基が脱離することはないですが、カルボニル炭素の隣に脱離能の高い官能基がついていれば、Oに偏った電子が戻るときにそこが外れて置換反応が完結していきます。」

 

I「それでは最後に求核剤ではなく塩基として働いたときの反応を見てみましょう。この場合、塩基はプロトン(H+)を攻撃し、奪うのでC-H結合に使われている電子がC-C結合に動きC=Cπ結合を形成します。C=Cπ結合形成と同時にC=Oπ結合が開裂し、Oに電子が流れ込みます。この一連の流れはカルボニル酸素が電子を吸引していることを考えても自然な流れですね。」

I「はい、それでは時間になりましたのでまたお会いしましょう( ゚ω゚)ノシ」

作成者:SLA