学びのヒント by SLA

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2019/03/18 学習ポイント

中心力運動

中心力運動とは

 力が空間内の一定点へ向き,力の大きさが一定点からの距離のみに依存する場合,その力を中 心力という.中心力の例として,たとえば太陽の周りを回る惑星は太陽からの万有引力という中 心力を受けて運動している.従って中心力についてよく理解することは,惑星運動の理解には欠 かせない. 数式を用いて中心力を定義するならば,物体に働く力を \bm{F},力が向いている一定点を原点 O,原 点から見た物体の位置ベクトルを  \bm{r}とすれば,

(1)   \begin{equation*} \bm{F} = F(|\bm{r}|)\frac{\bm{r}}{|\bm{r}|} = F(r)e_{r} \end{equation*}

と書ける場合、\bm{F}は中心力である.ただし|\bm{r}| = r とし,\bm{r}方向の単位ベクトルを e_{r} と定義した.以 後でも中心力の向いている一定点を位置ベクトルの原点にとる.

中心力運動では角運動量は保存する

 中心力の下で運動する物体の角運動量は保存する.これを確認しよう. まず運動する物体の角運動量 \bm{L} は,物体の位置ベクトルを\bm{r},運動量を\bm{P} として

(2)   \begin{equation*} \bm{L}=\bm{r} \times \bm{P} \end{equation*}

で定義される.ここで角運動量 \bm{L} を時間で微分することを考えよう.すると,

(3)   \begin{eqnarray*} \frac{d}{dt}\bm{L}&=&\dot{\bm{r}} \times \bm{P} +\bm{r} \times \dot{\bm{P}}\\ &=&\bm{r} \times \dot{\bm{P}}\\ &=&\bm{r} \times \bm{F} \end{eqnarray*}

となる.第二行目に移る際に \dot{\bm{r}}||\bm{P} であること,第三行目に移る際に運動方程式 \dot{\bm{P}} = \bm{F} を用いた.

 ここでトルク \bm{N}

(4)   \begin{equation*} \bm{N}=\bm{r} \times \bm{F} \end{equation*}

と定義すれば,角運動量 \bm{L} とトルク \bm{N} の間には

(5)   \begin{equation*} \frac{d}{dt}\bm{L} = \bm{N} \end{equation*}

の関係が成り立つことが分かる.この関係を回転の運動方程式と呼ぶ.物体に働く力 \bm{F} が中心力 であった場合,この運動方程式より

(6)   \begin{equation*} \frac{d}{dt}\bm{L} = \bm{r} \times \bm{F} = 0 \end{equation*}

となる.これは中心力の場合 \bm{r}\bm{F} が平行であるため,外積を行うと0になるためである.この ことから中心力の下での運動では角運動量は保存することが分かる.

中心力運動では運動は同一平面内で行われる

 さらに中心力の下での運動は同一平面内で行われることを確認しよう.上で中心力運動では角運動量が保存,つまり \bm{L} が定ベクトルとなることを見た.外積の性質により \bm{L}\bm{r} は直交する. 位置ベクトル \bm{r} が定ベクトルに対して常に直交することから,\bm{r} は原点を含む同一平面内の運動 に限定される.つまり,中心力運動では物体は同一平面内のみで運動することが分かる.これは, 地球が太陽の周りを公転する際,公転面が同一平面である理由である.

面積速度一定

 さて,惑星運動に関して面積速度一定の法則というのを聞いたことがあるかもしれない.実は面積速度一定の法則は万有引力に限らず,中心力運動ならば一般的に成立する法則である.ここ では面積速度一定の法則を導いてみよう.

まず先の議論により中心力運動では角運動量は保存するので

(7)   \begin{eqnarray*} const.vector=\bm{L}&=&\bm{r} \times \bm{P}\\ &=&\bm{r} \times m\dot{\bm{P}}\\ &=&m(\bm{r} \times \dot{\bm{r}}) \end{eqnarray*}

となり\bm{r} \times \dot{\bm{r}} は定ベクトルであることが分かる.\footnote{外積の図形的意味を理解していれば,極座標の具体的な成分表示を用いずとも \bm{r}\dot{\bm{r}} によって張られる平行四辺形 の面積が\bm{r} \times \dot{\bm{r}} で表されることから,直ちに面積速度が\frac{1}{2}(\bm{r} \times \dot{\bm{r}})であり,すなわち一定であることが分かるであろう. }

 さて,これまでの議論から中心力運動は同一平面内で行われることが分かっているので,その 同一平面を二次元極座標で表そう.二次元極座標の動径方向と円周方向の単位ベクトルをそれぞれ e_{r},e_{\phi} とすれば,位置ベクトル\bm{r}

(8)   \begin{equation*} \bm{r}=re_{r} \end{equation*}

と書ける.ただし r = |\bm{r}|とした.すれば定ベクトル \bm{r} \times \dot{\bm{r}}

(9)   \begin{eqnarray*} \bm{r} \times \dot{\bm{r}}&=&re_{r} \times (\dot{r}e_{r} + r\dot{e_{r}})\\ &=&re_{r} \times (\dot{r}e_{r} + r\dot{\phi}e_{\phi})\\ &=&r^{2}\dot{\phi}e_{r} \times e_{\phi}\\ &=&r^{2}\dot{\phi}e_{z} \end{eqnarray*}

第二行目に移る際,\\dot{e_{r}} = \dot{\phi}e_{\phi} を用いた.またe_{r} , e_{\phi} に直交するベクトルとして新たにe_{z} = e_{r} \times e_{\phi} を定義した.(円筒座標系をとった.)まとめれば,

(10)   \begin{eqnarray*} const.vector=\bm{L}&=&m(\bm{r} \times \dot{\bm{r}})\\ &=&m\cdot r^{2}\dot{\phi}e_{z} \end{eqnarray*}

である.これはつまり r^{2}\dot{\phi} が時間によらず定数であることを意味する. ここで r^{2}\dot{\phi} の意味を考える.中心力の下で物体が運動している様子を以下の図に示した.

 この図は原点Oから中心力を受けながら運動している物体の軌道を円弧状に描いたものである.角度 d\phi は時間 dt の間の微少角度変化である.この図から分かるように,時間 dt の間に物体と原点 O を結ぶ線分が掃く領域の面積は \frac{1}{2}r^{2}d\phi である.(2 次の微少量 drdφ は無視した.)これを時 間 dt で割り単位時間あたりに直せば\frac{1}{2}r^{2}\dot{\phi} となり,これを面積速度と呼ぶ.すでに先の議論により r^{2}\dot{\phi}が定数であることは分かっているので,以上のことから面積速度は時間変化せず,定数で あることが分かる.これはケプラーの第二法則である.

 この面積速度一定の法則は中心力運動でありさえすれば成立するので,具体的な軌道の形や,中心力の種類に依らず成立する.これは中心力の著しい特徴の一つである.

作成者:SLA