コラム もっと知るSLA 先輩×学問

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数学とSLAと共に歩んだ先輩の話。

2017/07/04

today's SENPAI

中村 聡

なかむら さとし

理学研究科 数学専攻
博士3年(専門:複素微分幾何学)
SLA数学担当(2011~2016)

2011年から6年間にわたりSLAとして活躍してくれた中村くん。自身の学びの経験、SLAとして1・2年生に接してきた経験、両方の視点から見る「大学での学び」とは? 「先輩×学問」コラム第5号、どうぞお楽しみください!

以下、先輩のSLAへの感想を紹介しています

それでは早速ですが、まずは1・2年次の話から聞かせてください。

Q1 大学に入った当初は、どんな感じでしたか?

現在博士2年なので、7年も前でもう仙台8年目かよっ!
大学に入りかけの時には、何を考えていたのか?
記憶は曖昧ですが、念願の数学専攻に入ったから高校よりもハイレベルな数学をやろうってことと、将来的には高校の数学の先生になろうってことを考えてたことは確かです。

1,2年のときは、数学をやろうって意気込みはあったけど、何を勉強すれば良いのかわからず悶々という感じでした。というのも、数学の講義は楽しく受けていたけど、週に一回しかないし、それ以外の講義は(物理の講義とか一部の講義は楽しかったが)あまり興味を持って臨めなかったという印象でした。
だから、一般教養などの講義は最低限単位は取るくらいに頑張り、あとは念願の数学を好きなだけやろうと意気込んでいました。しかし、数学の講義は教科書に書いてあることの解説だという印象だったこともあり、自分の意気込み・欲求か満たされないことからくる不安や、数学にはどうゆう世界が広がっているのか全然知らないことからくる焦りがありました。
自分の意気込みが空回りし、なんだか数学が雲の上の遠くの存在に感じてしまったということを鮮明に覚えています。

Q2 そんな中で、どんな風に勉強をしていたの?

そんな悶々とした状態だったので、とにかく自分の欲求を満たそうと考えました。
具体的には、1人で数学の本を読み漁りました。図書館に行くのはもちろんのこと、本屋に行ったりAmazonに行ったり、また、本の参考文献も見ながら様々な本に出会いました。
とにかくわけも分からず読みました
自由に自分の好きなことが出来て、この時は満足感に満ちていました。
一方で、今思えば、本当の理解が伴わず、わけも分からずに数学をすることはあまり意味のないことだと思い知らされるのですが、この時はそんなことを考えなかった(正確には、数学の勉強とはどういうものか知らなかった)ことは言うまでもありません。

Q3 わけもわからないまま読み漁る”経験”自体には、意味はあったんじゃないかな~!では、勉強の方法はその後何か変わりましたか?

変わるきっかけとなる出来事がありました。
ある先生に、「どんな本を勉強したら良いのか?」という(今思えば)不躾な質問をした時のことです。
今までどんなことを勉強してきたかを伝えると、「そんな勉強ではそのうち何も物にならなくなる。」と言い放たれました。3年生の時です。
先生は「修士に上がるまでに、1冊でも良いから、一転の曇りもない状態まで、じっくりと最後まで読み切りなさい。そうすればかなりの数学力がつきます。」と言って、ある本を紹介してくれました。
次の日からその本を言われた通りに読み始めました。しかし、以前の勉強がたたりました。
本に書いてある言葉は知っているものの、数学的に正確には何なのかわからず、手も足も出ないという状況になっていました。
ですので、この頃は1,2年次のときよりも1,2年次の教科書を見て復習していた気がします。
結果的に紹介された本は読み切るのに1年以上かかってしまいましたが、この期間で数学の真の勉強方法を会得出来たことは幸運なことでした。

Q4 ところで、もともとは高校の先生になりたかったということでしたよね。教職についてはどうなりましたか?

教育実習後から修士課程へと上がるに連れ、研究っぽいことが始まりました。すると、昔は雲の上の存在だった数学が、段々と地上に降りてくる感じがして(自分が上空へと旅だったのか?)自分はもっと数学の研究がしたいと強く強く思うようになっていました。ですので、教職への思いはどこかに行ってしまったというのが、正直なところです。

―研究の面白さにはまっていったんですね。自分で数学の本を読みあさる意欲もすごいなと思いますが、「勉強方法がわからない」と先生に聞いた、その一歩がとても大事なきっかけをもたらしてくれたんだなと思いました。人に聞くというのも大事ですね。
 それでは次は、現在の研究の話にうつりましょう。

Q5 今の研究テーマはどんなものですか?

研究領域でいえば、幾何学です。もっと狭くいえば、複素微分幾何学という学問領域に属します。
どういう雰囲気の研究なのかを説明すると―数学は分野をかなり単純化すると、方程式や数を扱う代数学と、図形・空間を扱う幾何学、関数や微分方程式を扱う解析学に大別されます。このように大別した時に、自分の研究の雰囲気をざっくり標語的に言うなら「代数学の文脈で出てくる図形・空間において、その解析学的あるいは幾何学的な性質と、代数学的な性質とを結びつける」というものです。

Q6 その分野・テーマのどんなところが面白いですか?

今の話の続きになりますが、図形・空間の解析的あるいは幾何学的な性質と言うのは、空間上で定義された、ある(偏)微分方程式が解を持つかということです。もし解があるなら、この空間は“美しい形である”という幾何学的な性質が従います。ここで、“美しさ”と言うのは、非常に主観的な言い方ですが、例えば、“グチャグチャに折れ曲がった線”よりも“直線”の方が美しく、“デコボコの球体”よりも“まん丸な球”の方が美しいという感覚です。
なにはともあれ、上で述べた「代数学の文脈で出てくる図形・空間において、その解析学的あるいは幾何学的な性質と、代数学的な性質とを結びつける」というのは、『解析学の事柄を代数学の事柄で特徴づける』と言い換えられます。したがってこの研究領域を扱っていると、様々な学問分野が交叉し調和の取れた世界が広がっており、数学を分野で分けるなどもってのほかと我々に訴えかけている点が面白いと感じています。
ここまで、数学的なワードを一切言ってないわけですが、もし、気になる方がいるならば、「Calabi予想」とか「小林-Hitchin対応」とか「Donaldson-Tian-Yau 予想」で検索してみてください。

Q7 なるほど。なんだかいわゆる「数学」のイメージとは違う感じがしましたが、そんな世界があるんですね。そのテーマを選んだのは、何かきっかけがあったんですか?

3年次に数学力をつけるために本を最後まで読みきり、その本の最後に、ここからの発展する内容として複素微分幾何学の本が紹介されていました。そしてその本を4年次の1年間弱で読み切りました。さらにその本の最後に複素微分幾何学の最先端が紹介されており、上で述べた、「Calabi予想」や「小林-Hitchin対応」や「Donaldson-Tian-Yau 予想」に興味を持ちました。関連する内容の本を探し出し、この本を修士で読もうと思ったわけですが、その本をパラパラ見ていると今の指導教官の名前があってラッキーとなり、現在に至るわけです。

―勉強を一歩一歩着実に進めていく中で、研究テーマと出会えた様子がよくわかりました。
さて、それでは最後に、「SLA」としての中村くんに焦点をあててみましょう。

Q8 SLAは何で始めた?活動してみてどう?

私は3年次の後期からSLAに加入していますが、加入するまではとある予備校でバイトしてました。そのバイトを辞めて新しいバイトを探している時に、仲の良い友人がSLAとしてすでに活動しており、その紹介で始めました。
SLAの活動内容は、紹介してくれた友人から事前に聞いた印象では、「1,2年生の持ってくる数学の講義についての質問について答えればよい。自分にとって数学は日頃から扱っているわけで、いつも通り数学をすれば良い」といったシンプルなものでした。しかし、実際にシフトに入って先輩SLAの方々の姿を目の当たりにしたり、教育学の知見を持つSLAサポート室の方々から様々なお話やアドバイスを貰うにつれ、SLAに対する印象が変わってきました。

Q9 そのSLA観の変化の中で、中村くんが大切にしていることは?

SLA加入時は上述した通り、「こう考えれば、こう解けばいいんだよ!」という、いわば高飛車な感じでした。しかし、ある時、数学的には正しく、自分にとっても完璧な対応をしたのだが、質問した学生は不満げで、イライラした表情で帰っていったという対応事例がありました。対応後、「なんで分かってくれないんだ!」と、私もイライラしていました。すると、ある先輩が、「結局その学生はどこが、どういう風に分からなかったのかね?」と言ってくれて、ハッとしました。「勉強・理解の方法は人それぞれ。客観的な視点だけでなく、学生の思考を辿ることも必要なのではないか?」ということに気づきました。この事例をきっかけに、現在、SLAの活動で大切にしている点は、(究極的には)「学生の分からなさを分析し、それを学生に自覚させる。そして、学生が踏み出したい次の一歩を後押しする。」ということです。

Q6 最後に、SLAとして1・2年生にメッセージを!

SLAにはいろんな学生が質問に来ます。質問の内容も様々で、講義中に理解できなかったことの質問や、レポート問題に関する質問、講義では扱われない内容に関する意欲的な質問、明日の試験を乗り切るための質問 e.t.c. いずれにしても、利用学生にはそれぞれの勉強のモチベーションがあって、そのための一歩を進むためにSLAに来ていると思います。SLAはそういう一人一人の思いに寄り添って活動していく組織です。
ですから、1,2年生には、「なぜ、勉強をしているのか?」ということを意識してほしいですね。と言っても、「将来ノーベル賞を取るため」という大きな目標を持ってももちろん良いですが、「なんか面白そうだからやってみる」とか「講義で疑問に思ったことを調べてみる」というようなことでも良いです。何というか、大学の勉強に対する自身のこだわりを持って欲しいです。そうすると、大学での勉強が自分に強く焼き付いて、一生の思い出・一生の財産になるような気がしているからです。SLAとして、利用学生のこだわりに対するお手伝いが出来れば、これ以上に嬉しいことはありません。

―SLA(学習支援者)としての大切な気づきの裏では、失敗経験があったんですね。
最後のお話では、大学での学びとは何かということにもヒントをもらえるお話だったかなと思います。せっかく大学にいるのだから、その経験を豊かにできるといいですよね。そしてそのお手伝いができるとセンターとしても嬉しいです。そんな思いを再確認させてくれるお話でした。
中村くん、ありがとうございました!

(インタビュー時:2016年12月)