コラム もっと知るSLA 先輩×学問

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地震の検出に取り組む先輩の話。

2016/12/02

today's SENPAI

奥田 貴

おくだ たかし

理学部 宇宙地球物理学科
学部4年(専門:地震学)
SLA物理担当(2014~2015)

2014年度から2015年度までSLAとして活動してくれた奥田くん。現在は他大学院に進学した彼ですが、卒業前に学部時代とSLAの活動を振り返ってもらいました。「先輩×学問」コラム第4号、どうぞお楽しみください!

以下、先輩のSLAへの感想を紹介しています

まずは1・2年次の話から。

Q1 大学に入った当初は、どんな感じでしたか?どう勉強してた?

自分は頭の回転が速い方ではなかったので、力学演習などの予習に時間をかける必要がありました。そのため、 ひとりで図書館に籠もり勉強していることが多かったです。寂しいときもありましたが、 まぁ勉強ってそんなものだろうと思っていました。

Q2 どんな授業が面白かった?

「社会の構造」という授業が面白かったです。 「ここにリンゴがある。リンゴがここに来るまでには、リンゴ農家,、リンゴ用の包装を作る業者、運送業者、卸売業者、スーパーなどが関わっている。リンゴひとつから社会の構造を見抜く力を身に付けろ」という授業でした。
自分はレポートでコーヒーに注目しました。最高級品豆使用の安いコーヒーを自販機で目にするけども、この低価格はどのように実現できているのか?という着眼点で、コーヒーが生産者から消費者まで届く過程を調べました。その結果, 元植民地の国で出荷されたコーヒーが先進国との間で、慣習から不当に安い値段で取引されているケースが多く存在していることや、最近このことが問題視されはじめ、公平な取引:フェアトレードという概念ができていることなどを学びました。例えば、カルディやスタバで扱っているコーヒーはフェアトレードで取引されているコーヒーのようです。日本で流通しているコーヒー豆のうち、どの程度が元植民地の国から出荷された豆なのかについては調べきれませんでしたが、世界的に見たらこのようなコーヒー豆の不当な取引の実態は確かにあるようです。自販機のような身近な日常に疑問の目を向けてみると案外面白いものだなということを勉強しました。非常によい授業を受けたなぁと思っています。

―最初は一人で勉強していることが多かったという奥田くん。自分の専門とは関係ない授業でも面白さを感じたようですね。様々な授業が受けられて視野が広がるのが、全学教育のいいところではないかと思います。
 それでは次は、現在の研究の話です。

Q3 今の研究テーマはどんなもの?

2011年の東北沖地震直後に起きた、岩手県釜石沖の繰り返し地震系列の検出をしています (図2)。繰り返し地震とは同じ領域で繰り返し発生する、波形の特徴が非常に似た地震群のことです。繰り返し地震は他の地震より単純な挙動をとるため、地震の基本的な、それでいて本質的な性質を調べるのに極めて都合の良い地震群として、多くの研究者によって調べられています。

東北沖地震直後は大きな地震がほとんど絶え間なく発生しているため、他の地震波形に隠れてしまって検出されていない繰り返し地震が数多く存在します。それらの検出を自作のプログラムを用い (図1)、東北沖地震に伴う地殻変動が最も大きい場所のひとつである釜石沖に焦点を絞り研究をしています。

©Takashi Okuda

<図1>検出した地震の例 (a) 相互相関関数の時間推移。黒線は過去の繰り返し地震と東北沖地震直後の連続波形との相互相関関数、灰色の線は同時間帯において繰り返し地震が発生した場合の相互相関関数の理論値、赤破線は閾値をそれぞれ示す。
(b) 連続波形と過去の繰り返し地震の波形。黒線は3月15日17時00分の時間帯の各観測点における連続波形を、赤線は過去に発生した繰り返し地震の波形の一例を表示している。

pic_okuda02©Takashi Okuda

<図2> 本研究で解析した繰り返し地震が位置する領域と観測点の分布。青枠は解析対象の繰り返し地震系列が存在する領域 X、 Y。赤三角は観測点分布を、破線のコンターは3年間の2011年東北沖地震の余効すべり (Sun and Wang, 2015) の分布を表す。 釜石沖は領域Xに該当。

Q4 今の研究テーマはどんなところが面白いですか?

先生や先輩方のこれまでの研究で、東北沖地震後の釜石沖では繰り返し地震の規模が増加したり、今まで地震が発生しなかった場所で地震が発生するようになったりしたことがわかってきました。 これは東北沖地震に伴う地殻変動によって、釜石沖で発生する地震のすべりの性質が大きく変化したことを示唆しています。

しかし、一方で自分の研究で、東北沖地震直後の釜石沖の規模の小さな繰り返し地震を検出してみると、東北沖地震の前後で保存されているものもあることがわかってきました。例えば、小さな繰り返し地震のなかで「地震が起こる順番」が存在することや、「大きな地震後には地震活動が静穏化し、大きな地震の前に小さな繰り返し地震の活動が活発化する傾向」が存在することなどです。
これらは東北沖地震の地殻変動に伴う応力擾乱と比べても、地震を引き起こすプレート間固着の時間発展や、隣り合う地震同士の相互作用は強いことを意味します。このように、地震の活動の中で何が保存され、何が変化しうるのかを調べていくことは地震予知の観点からも科学の観点からも重要であり、 面白みを感じています。

また、地震学の面白さという広い意味で言えば、学問でありながら社会との繋がりがある点が面白いと思っています。例えば、活断層調査などの結果が原発再稼働の可否や、シェールオイル掘削に伴う誘発地震の発生など、政治性が高い分野や産業と地震学が結びつく場合があるのも面白みのひとつだと思います。

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―大地震が多い日本ですが、地震という身近な現象でも、わかっていないことはたくさんある。それを明らかにしようと研究するところに面白さがあるようですね。
 さて、それでは次は、「SLA」としての奥田くんに焦点をあててみましょう。

Q5 SLAの活動してみてどうだった?

SLAの活動は大変ですね。東北大生が考えて分からなかった問題を、電磁気学、熱力学、量子力学、古典力学、流体力学、弾性体力学と幅広い科目において対応するので、利用学生の力になれない対応も数多くあります。そつなくこなした対応でももっと上手な対応があったんじゃないかと悩みます。自分がもっと解いてあげても良かったんじゃないか?とか、自分にもっと知識があれば最初から答えに近い方に誘導できたのになぁとか。2年間働きましたが全然慣れないです。大変なバイトだと思います。

一方で、やっていてよかったと思うことも多くあります。例えば、モチベーションが低い学生のやる気をどう引き出すかについては考えていて飽きませんでした。「10分で止まる使い捨て冷蔵庫なんて嫌だ!俺はいつだってアイスが食べたい!冷蔵庫をずっと動かすためにはサイクルを、このカルノーサイクルを動かす必要がある!」などと導入をうまくできた対応は楽しかったです。

また、このSLAの機関の理念は「ともそだち」で、バイトであるSLAに対しても多くの学びの機会が与えられていることも面白みの1つだと思っています。対応後の報告や月1回開かれる定例会、夏合宿がその例で、どのようにしたらうまい対応ができるのかSLA同士で教え合い、学び合い、議論する機会があり、非常に面白かったです。
また、個人的な話になりますが、北海道大学遠征や広島で開かれた大学教育関連のシンポジウムに発表・参加する機会を頂き、日本の大学における、学生による学生支援の実態の一端を知ることができました。非常に良い経験をさせてもらったなと思っています。

Q6 最後に、SLAとして1・2年生にメッセージを!

レポートで一緒に悩める友人を大切にすることを推奨したいです。複数人いると、解決できる問題の幅が大きく広がります。また、年の離れた教授から教わるときより、同世代の友人から教わるときのほうが、「それ、本当か?」と疑いながら話を聞け、結果的に記憶に残ります。そして何より、一人で勉強するより友人と勉強したほうが、学びが楽しくなります。

しかし、現実問題として、友人と異なる先生の授業を受講している場合など、友人と一緒に悩むのが難しい状況は多くあると思います。そのような場合はぜひSLAに質問しに来てください。学生と距離があるけど知識が豊富な教授と、頼りないけど気楽に質問ができる友人の中間に、SLAがあれば良いと思っています。どうかここを上手に利用してください。

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―熱心にSLAの活動に取り組んでくれた奥田くん。積極的に活動し、どんどん成長していった姿は印象的でした。これを見ている利用学生さんには、一人での勉強はもちろん、友人やSLAと取り組む勉強も大事にしてほしいと思います。
奥田くん、ありがとうございました!

(インタビュー時:2016年2月)