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幾何学の新しい分野に挑む先輩の話。
2016/12/01

中島 啓貴
なかじま ひろき
理学研究科 数学専攻
博士課程前期2年(専門:微分幾何学)
SLA数学担当(2013~2018)
2013年の後期からSLAとして活動している中島くん。数学に熱心な彼に、学部時代の事、今の研究テーマの事、SLAの活動の事を聞いてみました。「先輩×学問」コラム第3号、どうぞご覧ください~。

まずは1・2年次の話から聞いていきましょう。
Q1 大学に入った当初は、どんな感じでしたか?
僕の場合は、大学が始まるのが震災の影響で5月からだったので、サークルに入りそびれてしまったんです。結局夏ごろにはサークルに入ることができて、今でも続けています。友達を作るタイミングがなく(例年はオリエンテーション合宿がある)焦りましたが、今では同じ学科の人と仲良くなれました。
入学当初はとにかく数学(特に解析学)だけは頑張ってついていこうと思っていました!なので夏休みに東北大北大合同セミナーに参加したりしました。具体的にはフーリエ解析についてやりました。1年生での参加は珍しいらしく、周りの先輩達の頭の良さに、ただただ驚いていましたね。
Q2 どういう勉強をしたの?
周りとあまり変わらない授業を取って勉強していましたが、理数応援プロジェクトという理学部で留学ができるプログラムがあって、そのために授業を少し多く受けていましたね。具体的には物理学科の電磁気学の専門科目を取っていました。
Q3 どんな授業が面白かった?
専門の科目が興味深かったですね。とくに群論は抽象的で現代数学の一端を垣間見ることができたのが良かったです。僕の場合、抽象度が高いと楽しく感じるので、線形代数も全学の授業の中では面白かったですね。
理系以外は……よく覚えていないですね(笑)第二外国語はフランス語を取って、先生が毎回シャンソン歌手の歌を聞かせてくれたのは覚えています。フランス語では男性の場合と女性の場合で単語が変化するんですが、偶然にもクラスの全員が男性で練習するのが大変だったってこともありました。
―学部時代から数学に熱心だった中島くん。合同セミナーやプロジェクトへの参加など、積極的に数学の勉強をしていたようですね。
それでは次は、現在の研究の話です。
Q4 今の研究テーマはどんなもの?
今は「測度距離空間の幾何」というものを研究しています。「測度」とは体積や面積の一般化したものと捉えてもらえば大丈夫です。「距離」はみなさんのイメージする距離以外にも一般的なものがあります。
例えば、中学校や高校の図形の問題では2点間の距離は直線距離で測りますが、仙台駅から川内キャンパスまでは直線距離と実際の歩行距離は違いますよね。歩行距離が最短になるような距離で図形(幾何学)の問題を考えたりします(これをリーマン距離といいます)。仙台は計算が大変そうですが、京都やマンハッタンの様に道が碁盤の目状だった場合はもう少し考えやすそうです。このような街で道のりの距離を考えると円が四角くなります(詳しくはマンハッタン距離で検索!)。
別の例としては、球面上の距離です。地面に直角三角形を書くと三平方の定理がなりたつ…と思いきや、巨大な直角三角形の場合は地球の丸みのせいで三平方の定理が成り立ちません。しかし、ちゃんと球面上でも図形の問題を考えることができます(“球面幾何”で検索!)。
さて、本題の測度距離空間の話へ入りましょう。球面上においては、二点間の距離を大圏航路で結んだ時の長さで測ることができます。また、測度は球面上の図形の面積を測るものとして与えることができます。このようにして球面は測度距離空間となります。3次元空間の中の球面上の点は経度と緯度の二つの数で表すことができるのでこれを2次元球面と呼びます。2次元球面と同様にn次元球面についても測度距離空間となります。
僕が研究しているのは測度距離空間の列を考え、それがどのような空間に収束するかについてです。例えば、1次元球面、2次元球面、3次元球面、…、n次元球面、…という空間の列を考えます。この例では、半径が1の球面なら収束先の空間はただ一点からなる空間となります。私は、これが他の空間ならどうなるのかという問題に対して、”等周不等式”(←とても面白いのでぜひ調べてみてください)というものを使ってアプローチしています。
Q5 どういうきっかけでそのテーマに?
元々解析学をやろうとしていたんですが、I先生の幾何学の授業を聞いて、興味が湧き始めました。4年生のセミナーではカリキュラムの関係上I先生のもとで勉強することはできなかったんですが、他の幾何学の先生の元で1年間勉強し、今でも続けています。
Q6 では、今の研究テーマはどんなところが面白いですか?
比較的新しい分野なので、まだ分からないことがたくさんある、未知のことがたくさんあること自体が面白いですね。ほかにも直観が合っていることがあったり、色々な空間を想像/創造(←面白い!)してどういう性質が成り立っているか推測することで、自分たちの当たり前が一般化されることが面白いです。
例えば、一般的には最短距離は1通りしか取り方がないと思いますが、地球表面上で北極から南極への最短距離は何通りにも決めることができますね。日々こんなことを考えて面白いと感じています。
―具体例だと少しイメージが湧くでしょうか?大学の授業がきっかけで、研究テーマが決まったのは興味深いですね。1・2年生のみなさんも、自分が面白いと思える「研究テーマ」に出会えるよう、色々な授業を取ってみるのもいいかもしれません!
さて、それでは次は、「SLA」としての中島くんに焦点をあててみましょう。
Q7 SLAはどういうきっかけで始めたんですか? 実際に活動してみて、どう?
SLAは人に紹介されて始めました。自分が勉強してきたことが活かされるというのが魅力ですね。特に線形代数にはまっていて、それを1、2年生に教えられたらと思っています。基本的に年下の学生と一緒に数学の話をするのが楽しいです。たまに今まで気付かなかったような考え方や根本的な考え方を議論することがあり、とても楽しいです。
Q8 活動する上では、どんなことを大事にしている?
学生が理解できているかを気にしていますね。相手が考える時間を重要だと思い、なるべく口出ししないようにしています。学生にも単に答えを教えるのではなく、自分で考えてtry and errorをしてもらうようにしています。
Q9 活動する中で、利用学生さんに関して思うこと、気づいたことはある?
自分の興味を持った分野を調べてみるのも大切だと思います。図書館で調べてみたり、SLAの専門知識を持った人に聞いてみるのがいいかなぁ。数学に関しては視覚的なアプローチをしない人が多いので、実際に図を描くのも重要だと思います。
Q10 それでは最後に、SLAとして1・2年生にメッセージを!
今回これを読んで、線形代数や空間の楽しい話をしたい、聞きたい人はぜひSLAに押しかけてください。
最後に線形代数がらみで一句
おもしろい そのベクトルは どこへゆく
ありがとうございました。
―数学が好きな中島くん。数学に興味がある学生さんにはもちろん、そうでない学生さんへも丁寧に対応してくれると思います。数学を勉強するときは、Q9の話を参考にしてみてくださいね。
中島くん、ありがとうございました~。