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2018年11月15日

【物理のミニクイズ】日本の建物は、地震で崩壊しないようにどのような物理量に注意して設計されている?

こんにちは!
11月の学びポイントと一緒に掲示した、物理のミニクイズはこちらでした↓↓

日本の建物は地震で簡単に崩壊しないようにある物理量に注意して設計されています。
どのような物理量でしょう?

以下、解説です!

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地震大国の日本では、ほとんどの建築物が地震の振動数が建物の「固有振動数」と
一致しないように設計し「共振がおきないように」注意されています。
共振の例として、ブランコを考えてみましょう。
ブランコをこぐ時、力を加えるタイミングを調節することでブランコを大きく揺らせると、
私たちは経験的に知っています(図1)。
これは、ブランコにはブランコの固有振動数があり、私たちがブランコをこぐ時、
自然とタイミングをこの固有振動数に合わせてこいでいるということなのです。

 

図1: ブランコをこぐ人の模式図。
ブランコの揺れの周期に合わせてこぐことで大きく揺らすことができる。

固有振動数や共振のグラフ的なイメージや数式を、図2に簡単にまとめます。
それぞれの詳細な説明はここでは省きますが、知りたい人は自分で調べてみたり
SLAで質問してみたりしてください[1]。

 

図2: 固有振動数と共振の関係について示した図。
右上図では共振が起きておらず、周期的に振動しているが、右下図では共振が起きており、時間が経つにつれて、揺れ方が大きくなっている。

最初の問いに立ち戻って、建物と地震の関係について考えてみましょう。
先ほどの説明にあったブランコと同じように、建物にも固有振動数があります。
地震の振動数が固有振動数に一致していると、建物もブランコの様に揺れ方が
次第に激しくなっていき(共振)、揺れに耐えられない建物は壊れてしまいます。
これを防ぐために、日本の建物は固有振動数が地震の典型的な振動数とずれるように作ってあります。

では建物の固有振動数を簡単に見積もってみましょう。
建物の固有振動数は、その材質や構造で決まります。
鉄筋コンクリート造りの標準的な建物の固有振動数はおおよそ

固有振動数 [Hz] = 50 [m/s] / 高さ [m]

で概算できます[2]。
高さが高いほど固有振動数は小さくなり、現在の宮城県庁の本庁舎
(1989年建造、地上8階建、高さ89.8 [m])の固有振動数は0.56 [Hz]、
先代の宮城県庁舎(1931年、地上4階建、高さ20.5 [m])では
固有振動数を2.44 [Hz]と見積もられます(図3(a))。

 

図3. (a)先代庁舎、現代庁舎の固有振動数の差, (b)2.44[Hz]の振動成分を含む地震に対する応答の違い。

図4に示すように、地震は様々な振動数が混ざり合っている複雑な振動なのですが、
激しい(加速度の大きな)揺れを主に伝えるのは、振動数が1 [Hz]以上の大きい成分です。
したがって、現在の宮城県庁舎では地震による共振が起きにくく、
大きな地震が来ても耐えることができます。
逆に先代の県庁舎は2.44[Hz]の振動を含む、大きな地震が来た時共振が起こり、
崩壊する危険があると予測できます(図3(b))。
これが原因かは定かでありませんが、先代の県庁舎は1978年の宮城県沖地震で被害を受け、
1986年には解体されてしまいました[3] 。

 

図4. 地震波の分解。周期の短い成分(>1[Hz])は加速度の大きな揺れである場合が多い。

ところで、建物の高さだけで固有振動数が決まるのなら、先代の県庁舎のような
50[m](地上5~6階建くらい)以下の建物は常に地震による崩壊の危険性に晒されていることになります。
この問題を解決するために、建物の固有振動数を変化させる工夫によって
共振を防ぐ仕組みを免震構造と言います。
建物の基礎部分に隙間があったり、建物が大きなゴムの塊のような土台に
乗っていたりするのをみたことがあるでしょうか。
これはアイソレータといい、建物と地面を切り離し、建物全体がゆっくり
揺れるようにして(固有振動数を小さくして)共振の発生を防いでいます [4] 。

このように、激しい地震に耐えられる日本の建物には「共振」現象の本質を
利用した工夫がなされており、地震の揺れによる建物の崩壊を防いでいるのです。
物理学の授業ではあまり実用的な部分に触れないことが多いですが、
ぜひ新たな物理を学んだら実用例を探してみましょう。

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< 余談 > 電子レンジは食材中の水分子を共振させて温めている?

「電子レンジは水分子の固有振動数に近い周波数のマイクロ波を照射することに
よって食品を温めている。」という風に勘違いしがちですが、じつはこれは間違っています。
電子レンジの加熱原理は水分子の固有振動数とは関係ありません。
どうやって温めているのか、気になる人は調べて見ましょう。

 

参考文献
[1] 小形正男『振動・波動』裳華房,  2006, pp.94-101 
[2]耐震ネット「地震の周期と建物の揺れの関係」https://www.taisin-net.com/solution/online_seminer/mensin/b0da0e000000conh.html(閲覧2018年11月14日)
[3]宮城県公式ウェブサイト「宮城県庁舎のおいたち」https://www.pref.miyagi.jp/site/profile/oitati.html(閲覧2018年11月14日)
[4]日本免震構造協会「免震装置について」http://www.jssi.or.jp/menshin/m_kenchiku.html(閲覧2018年11月14日)

 

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